第 3 章 コーヒーの有機栽培
3.7 消費者および業者の有機コーヒーの評価
有機コーヒーの市場拡大の将来性を占うには、現時点で消費者やコーヒー業者が有機コ ーヒーについてどのような意識、評価を持っているのかを知る必要があると思われる。こ の節では消費者、コーヒー大手業者、コーヒー中小業者の有機コーヒーの評価について、
主にそれぞれに行ったアンケートの結果から明らかにしたいと思う。
3.7.1 消費者の評価
筆者が行った消費者へのアンケートでは、実際に飲んだことのある人の評価は、おいし い、口当たりがよくなんとなくリッチという肯定的意見と、有機栽培が味に反映している とは思えない、においが気になる、など否定的意見、そして体によさそうなど味よりも健 康面で評価するというものとに分かれた。しかし、有機栽培であることを選択の条件に入 れている人は55人中わずかに2人であり、それほど良い評価は得ていないと推察できる。
3.7.2 大手コーヒー企業の評価
有機コーヒーを業者はどう捉えていて、品質をどのように評価しているのだろうか。ま た、需要は拡大しているのだろうか。
スーパーなどでよく見かけるコーヒー会社を大手と考え、その中から 6 社にアンケート を送付し、2社から回答を得た。また、インターネットにて有機栽培を通信販売している中 小業者を 7 社、日陰樹を用いて栽培されたとホームページで載せている有機コーヒーを扱 う中小業者を19社、合わせて26 社にアンケートを送り、9社から回答を得た。フェアト レードでも有機栽培を奨励することになっているので、有機コーヒーを扱っている、フェ アトレード通信販売企業10社にアンケートを送付し、1社から回答を得た(質問は表 3-1 から表3-2に、業者からの回答の全ては巻末の付録に掲載している)。すべて社名は伏せる という形でお願いしたので、本稿でも具体的な名前や、業者の区別は行わない。
まず、大手企業からの回答とその分析である。
販売目的は食に対しての顧客の不信感を取り払う商品として扱っていて、食に対する安
30 有機コーヒー社前掲ホームページ参照。
31 業者へのアンケートの回答より。
全・安心が一層問われる時代となったので、有機コーヒーは今後伸張していくと判断した ことから有機コーヒーを扱っていると回答している。他の有機農産物の動向にのっとった ものといえるだろう。
入手方法は生産農園を指定し、商社を通して輸入しているという回答と単にJAS認定を 受けた栽培者から商社や生産者組合、輸入会社を通して輸入しているとの回答とがあった。
これは他のコーヒーと特に違いはない。大手業者はもちろん、中小業者も農園指定や現地 購入はごく普通のことである。
味、品質の評価については、有機コーヒーの品質は様々だが、独自の基準を満たしたも のだけを輸入しているとのことである。また、味は品種、気候土壌が同じであれば通常品 と大差ないが、有機栽培農園はより丁寧な栽培、精製を行うことが多く、一般的に高品質 豆が産出されるとのことである。やはり有機でも品質のよい物を選んでいるようである。
また、おおむね品質には肯定的な評価をしていると受け取れる。
有機コーヒーの供給不足があるかどうかについては、現段階で販売総量はそれほど多く なく、生産農園を指定して年間使用分を契約していることから、安定した手当てができる とのことだった。また、先物取引でニーズを見越して仕入れるため、供給不足になること はないという回答だった。有機コーヒーの総生産量は十分にあるようである。つまりは供 給過剰である。
市場調査によると、スーパーの店頭価格で有機コーヒーは高めであるが、生産や認証で 手間がかかる割に飛びぬけて高くはない。その理由については、価格はより多くの顧客が 使用できるよう、通常のコーヒー販売価格に近づけているという回答を得た。また、原材 料費以外の包装費など、製造過程で価格を調整しているという。
宣伝不足なのではないかという指摘には、有機栽培商品は市場認知が進んでいるものの、
コーヒーカテゴリーでは定着していないので、現段階ではさほど宣伝効果が期待できない ためとしている。また、店頭で消費者が選ぶかどうかが大切という点からそれぞれの売場 での販促のほうを重要視しているという。
店頭で有機コーヒーが少ないのはなぜか、伸びていないのではないか、という質問につ いては、現在市場で流通されている商品の生産地域が中南米中心で比較的日本での認知度 や人気が低い地域で生産されているものが多い、通常のコーヒー豆に比べて割高、顧客の 認知の高い商品が発売されていない、と回答があった。そして、現在は有機栽培にこだわ りを持つ顧客が購入者の大半と思われるが、販売実績は年々伸びているということである。
ニーズはあり、人気もそれなりにあるものの、まだまだ低いといった状態であると業者は 分析している。
表3-1 大手業者にあてたアンケートの質問事項
1. 有機コーヒーをなぜ扱うようになりましたか。理由をお聞かせください。
2. 有機コーヒーの味や品質などについてどのように評価していますか。
3. どのようにして有機コーヒーを確保していますか。栽培者と契約しているのでしょう か。あるいは、通常のルート(小規模の生産者から、仲買人を通し、国家レベルでの品 質管理機構などを経ている)で有機コーヒーが1つの商品の種類として手に入るのでし ょうか。また、有機コーヒーの輸入国を教えてください。
4. 有機コーヒーは収穫量が一般的生産法に比べて少なくなり、しかも、堆肥作りなど大変 な手間と人件費がかかり、認証も受けなければならないということで、大変なコスト高 になると思われます。しかしながら、店頭価格ではそれほど値段が変わらないように思 われます。これはなぜかについてお聞かせください。
5. 有機コーヒーは全国で販売できるだけの量が安定的に手に入るのでしょうか。できるの であれば、その理由を、できないのであれば、そのときの対処法について教えてくださ い。また、その他、有機コーヒーを扱う上で苦労している点がございましたら教えてく ださい。
6. 私は有機コーヒーの CM を見たことがありません。店頭でひっそりと売られていると いう印象があります。これまでにマスメディアを通して有機コーヒーの宣伝をしたこ とがありますか。あればその効果はあったとお考えでしょうか。なければその理由を お聞かせください。
7. 私は宇都宮市でスーパーやコンビニエンスストアなどを調べたところ、有機栽培コーヒ ーを扱っている所はきわめて少数で、扱っていてもどこか1社の1種類でした。この理 由は私は、「単に人気がない」か、「大量に生産ができないので絶対流通量が少ない」の どちらかだと考えましたが、どちらでしょうか。
また、消費者の有機コーヒーに対する反応はどうでしょうか。有機コーヒーの占める売り 上げの割合は伸びているのでしょうか。それとも一定の量を占めるにとどまっているので しょうか。
表 3-2 インターネットで有機コーヒーや日陰樹を用いたコーヒーを販売している業者に あてた質問事項
1. どのような理由、目的で有機コーヒーを扱っていますか。
2. 有機コーヒーについてその味、品質を含め、どのように評価していますか。
3. 有機コーヒーの全コーヒーの売上に占める売上割合はどのくらいですか。
4. 有機コーヒーの売上の増減、また、もしありましたら顧客の反応を教えてください。
4-A: 有機コーヒーの売り上げの増減 4-B: 有機コーヒーに対する顧客の反応
5. インターネット等の通信販売でのみ販売を行っている業者様は5-Aにお進みください
店頭での販売も行っている業者様は5-Bにお進みください
5-A なぜ店舗販売は行わず、通信販売のみにしているのですか。簡単な理由を教えてださ い。
5-B 店舗販売はどのようなところで行っていますか(個人経営の店舗、デパートやスーパ ーへの出荷など)。また、その店舗での販売結果はどうかを簡単に教えてください。
6. 貴社はシェードツリーをコーヒーの木の近くに植えて栽培されたコーヒー豆を販売し ているとホームページにありました。どのような理由からこのコーヒーを扱うようになり ましたか。森林生態系を保全するものとして一部の機関が認証を発行していますが、認証 を受けているコーヒーでしょうか。(扱っていない業者にはこの質問は書いていない)
7. 有機コーヒーやシェードツリーを用いたコーヒーは、生産量が全コーヒー生産量に比べ て流通量が少なく、また、面積あたり収穫できる量も、一般的栽培法より少ないと思われ ますが、どのようにして安定した量を確保していますか。また、扱う中で苦労している点 はありますか。
3.7.3 中小コーヒー企業の評価
中小企業からの回答は実に様々であった。
最も考えさせる回答は有機コーヒーの定義づけであった。単に有機コーヒーというだけ では分類はできないものであり、一般的栽培法との相違や分類の基準が不明確ということ である。スーパーなどの店頭では有機栽培というカテゴリーが存在し、統計にも有機コー ヒーのシェアなどが載っているため、すでに有機コーヒーという分野が確立していると思 い込んでそのとき質問をした。しかし、認証基準も機関によって異なり、また認証を受け ていなくても実際は有機栽培であるということも少なからず存在するということである。
生産国が認証制度を持っている国もあれば、外国の認証制度を獲得する農園もある。単に 費用、人員がそろっていないだけの場合も往々にしてある。
有機コーヒーを扱っている理由は、食の安全性の高まりや環境に配慮する目的というの はむしろ少数で、よいコーヒーを求めていったらたまたま有機栽培であったといった回答 が多かった。そのようなところでは有機というカテゴリーで販売しておらず、客に聞かれ たら有機栽培だと答える程度であるという。
したがって有機コーヒーの味、品質の評価も様々である。有機コーヒーであるというこ とだけでは味と何にも関係がなく、有機であるか否か以上にその気候や収穫後の取り扱い、
品種に左右されるとのことである。日本で想像する普通のキャベツと有機のキャベツとい うように単純にはいかないようである32。概して日本の有機コーヒーは低品質であり、有機
32 日本の野菜はそれほど品種が多いわけでもなく、気候も地域差が少ないので有機栽培であることが味に 与える大きなファクターなのであろう。また、コーヒー豆は種子であるので農薬の影響がないが、キャベ ツなどは農薬が直接かかってしまうという違いも大きいと思われる。